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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)409号 判決 1984年6月13日

控訴人

株式会社ジャックス

右代表者

河村友三

右訴訟代理人

龍岡稔

被控訴人

今井晃

右訴訟代理人

服部正敬

服部訓子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文第一項同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張

一  被控訴人の請求原因

(一)  控訴人、被控訴人間には、控訴人を債権者、被控訴人を債務者とする東京法務局所属公証人梶川俊吉作成昭和五四年第六〇七〇号債務弁済契約公正証書(以下「本件公正証書」という。)が存在し、右公正証書には次のような記載がある。

1 被控訴人は、控訴人に対し昭和五四年七月二四日被控訴人が控訴人の取扱店から購入した自動車(フェアレディZ品五六る二二一四)の残代金で被控訴人から直接控訴人に支払う約定の金二二二万五、〇〇〇円の債務を負担することを承認し、これを同年九月二七日限り金七万六、一〇〇円、同年一〇月より元本全額に達するまで毎月二七日限り金七万四、一〇〇円あての三〇回の割賦で支払う。

2 元金を期限に弁済しないときは、以後完済に至るまでの間日歩八銭の割合による遅延損害金を支払う。

3 被控訴人は、右債務の履行を怠つたときは、直ちに強制執行を受けることを認諾する。

(二)  しかし、本件公正証書は、被控訴人の不知の間に作成されたものであり、またその記載内容である前記の債務も被控訴人においてこれを負担していない。よつてその執行力の排除を求める。

二  請求原因に対する控訴人の答弁

請求原因第一項の事実は認める。同第二項の事実は、争う。

三  控訴人の抗弁

(一)  被控訴人は、昭和五四年七月中旬ころ東洋モータース株式会社(以下「東洋モータース」という。)との間で日産フェアレディ自動車(登録番号品五六る二二一四)一台を代金一九五万八、〇〇〇円(ただし、車検費用を含む。)で買受ける旨の売買契約を締結した。

(二)  被控訴人は、右代金を割賦で支払うため昭和五四年七月二三日東洋モータースと提携している控訴人に対し融資方を申し込み、その結果、翌二四日控訴人との間で次のような内容のいわゆるオートローン契約を締結した。

1 控訴人は、被控訴人に代わり前記代金一九五万八、〇〇〇円と自賠責保険料、自動車保険料、重量税及び付帯費用三三万八、〇〇〇円との合計二二九万六、〇〇〇円から被控訴人において東洋モータースに支払済の頭金五一万六、〇〇〇円を控除した残額一七八万円を東洋モータースに支払う。

2 被控訴人は、右残金一七八万円とこれに対する二五パーセントの分割払手数料四四万五、〇〇〇円との合計二二二万五、〇〇〇円を次のとおり分割して控訴人に支払う。

(1) 昭和五四年九月二七日 七万六、一〇〇円

(2) 同年一〇月以降昭和六一年二月まで毎月二七日限り 各七万四、一〇〇円

3 前記自動車の所有権は、右2の割賦金の支払を完了するまで控訴人に帰属することを確認する。

4 被控訴人が右2の割賦金の支払を遅滞し控訴人から二〇日以上の相当の期間を定めて書面によりその支払を催告されたにもかかわらず、その指定期間までに支払わなかつたときは、期限の利益を失い、残額を一時に請求されても、異議がない。

(三)  ところで、右オートローン契約には法律的には金銭消費貸借契約と準委任契約との混合契約と解すべきものである。すなわち、控訴人を貸主とし、被控訴人を借主とする一七八万円についての金銭消費貸借契約と右貸金を直接借主に交付することなく、被控訴人の委託に基づいて控訴人が被控訴人に代わつて前記一七八万円を東洋モータースに立替払することを目的とする準委任契約とが併存する混合契約が右オートローン契約である。

(四)  被控訴人は、右オートローン契約を締結する際、控訴人が選任した者を被控訴人の代理人とし、控訴人との間で右オートローン契約に基づく前記二二二万五、〇〇〇円(元本の外、貸金に対する利息、委任事務処理費用及び報酬を含む。)の返還債務について、強制執行の認諾ある公正証書を作成することを合意した。

(五)  控訴人は、昭和五四年七月二八日東洋モータースに対し前記一七八万円を立替払したので、同年八月二九日上田芳雄を被控訴人の代理人に選任し、同人は、同日控訴人の代理人である松田修一とともに東京法務局所属公証人梶川俊吉に対し本件公正証書の作成を嘱託し、これにより右公正証書が作成された。

四  抗弁に対する被控訴人の認否

(一)  抗弁(一)の事実は、認める。ただし、被控訴人が買受けたのは、日産フェアレディではなく、日産セドリック自家用乗用自動車であり、被控訴人は、日産フェアレディの代金債務は負担していない。

(二)  同(二)の事実は、認める。ただし、3の「前記自動車」は、日産セドリックである。

(三)  同(三)の主張は、否認する。本件オートローン契約は、後記のような準委任契約であつて、金銭消費貸借契約は併存していない。

(四)  同(四)の事実のうち金銭の性質は争い、その余は認める。

(五)  同(五)の事実のうち、立替払の事実は不知、また控訴人が上田芳雄を被控訴人の代理人に選任した事実は認めるが、その代理権は争う。その余の事実は、認める。

五  被控訴人の再抗弁

(一)  本件オートローン契約は、買主である被控訴人が東洋モータースから売買契約に基づき日産セドリック型自家用乗用自動車の引渡しを受けたときに控訴人が被控訴人に代わつて右自動車の購入代金等を立替払し、これにより取得する控訴人の被控訴人に対する弁済者の代位に基づく求償債権に関する約定であつて、自動車の引渡しを停止条件とする準委任契約である。しかるに、東洋モータースは、右自動車を被控訴人に引渡さないまま、昭和五四年八月七日倒産し、商品一切は、何者かによつて持ら去られ、右自動車もなくなつてしまつた。したがつて、右停止条件は成就しないことが確定したから、控訴人は被控訴人に代わつて立替払する義務が発生しなかつた。

(二)  仮に然らずとするとも、東洋モータースの右自動車の引渡義務が履行不能となつたので、被控訴人は、昭和五四年八月八日ころ東洋モータースに対し右売買契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示は、そのころ東洋モータースに到達した。

(三)  右(一)、(二)に述べたしだいで被控訴人は東洋モータースに対し何らの債務も負担していないから、控訴人がその主張のような立替払をしたとしても、右弁済は無効であつて、控訴人は、被控訴人に対し右弁済に基づく求償債権を取得するものではない。

(四)  仮に然らずとするも、控訴人は、前記オートローン契約の一内容として被控訴人に対し右自動車の引渡義務の履行を保証した。しかるに、右保証債務は、履行不能となつたので、被控訴人は、昭和五六年九月二四日付第三準備書面により控訴人に対し前記オートローン契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示は、原審第六回口頭弁論期日である同年一〇月二三日控訴人に到達した。

(五)  以上のしだいで、控訴人主張の債権は不存在であり、本件公正証書は、右債権についての執行証書としての効力を有するものではない。

六  再抗弁に対する控訴人の認否

(一)  再抗弁(一)の事実は、否認する。ただし、東洋モータースが被控訴人主張の自動車を引渡さないまま倒産し、現在右自動車が存在しないことは認める。

(二)  同(二)の事実は、不知。

(三)  同(三)の主張は、争う。

(四)  同(四)の事実のうち、保証の点は否認し、その余の事実は認める。

(五)  同(五)の主張は、争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因第一項(公正証書の存在とその記載内容)の事実は、当事者間に争いがない。

二被控訴人は、本件公正証書が被控訴人の不知の間に作成されたものであり、また、その記載内容である支払債務も負担していない旨主張するので、次に検討する。

(一)  抗弁(一)(自動車の売買契約の締結)及び(二)(オートローン契約の締結)の事実のうち、被控訴人が買受けた自動車の名称、登録番号を除くその余の事実は、当事者間に争いがない。

控訴人は、被控訴人が買受けた自動車は日産フェアレディ(品五六る二二一四)である旨主張し、<証拠>によれば、右日産フェアレディ(品五六る二二一四)なる自動車は、被控訴人が昭和五一年六月ころ新東京日産自動車販売株式会社から代金一八〇万三、〇〇〇円で買受けたものであることが認められるので、前記証拠は措信しがたい。

そして被控訴人は、被控訴人が東洋モータースから買受けた自動車は、日産セドリック型自家用乗用自動車であると主張している。

右判示のところからすれば、本件公正証書の記載中、被控訴人が控訴人の取扱店から購入した自動車がフェアレディZ(品五六る二二一四)である旨の記載は、誤りであるといわなければならない。

しかしながら、被控訴人が東洋モータースから自動車一台を買受け、右代金一九五万八、〇〇〇円と付帯費用等三三万八、〇〇〇円との合計二二九万六、〇〇〇円から被控訴人が支払つた申込金(頭金)五一万六、〇〇〇円を控除した残金一七八万円に分割払手数料を加えた二二二万五、〇〇〇円の支払のために、控訴人との間で昭和五四年七月二四日オートローン契約を締結したことは、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、控訴人は右オートローン契約に基づき昭和五四年七月二八日東洋モータースに対し右残金一七八万円を立替払したことが認められるうえ、抗弁(四)(公正証書作成のための代理人の選任及びこれによる公正証書作成の合意)の事実及び同(五)のうち上田芳雄を被控訴人の代理人として(右代理人が右(四)の合意に基づき選任されたことは、弁論の全趣旨から明らかである。)本件公正証書が作成された事実は当事者間に争いがないから、本件公正証書作成過程に瑕疵はなく、前記のような自動車の記載の誤りも前記債務内容自体の表示には影響がないと認められるので、これらの点についての被控訴人の主張は、理由がない。

(二)  被控訴人は、「本件オートローン契約は準委任契約であつて、被控訴人が東洋モータースから前記日産セドリック型自家用乗用自動車の引渡しを受けたときに控訴人が被控訴人に代わつて右自動車の購入代金等を立替払し、これにより取得する控訴人の被控訴人に対する求償債権に関する約定である。」旨主張するところ、控訴人はこれを争い、本件オートローン契約は控訴人と被控訴人との間の金銭消費貸借契約と被控訴人の委託に基づいて右自動車の購入代金等を立替払する準委任契約とが併存する混合契約である旨主張するので、次に判断する。

前段認定の事実と<証拠>によれば、本件オートローン契約は、自動車の購入代金及び車検整備等に要する費用の残金を控訴人の取扱店(控訴人とオートローン取扱に関する契約書によりいわゆる代理店契約を結んだ自動車の販売店)の顧客の依頼に基づき、顧客に代わつて控訴人が右取扱店に直接立替払し、控訴人は顧客より分割してその立替払金の返済と立替払手数料の支払を受ける契約であつて、右取扱店は、オートローンの利用を希望し、控訴人所定の申込書で控訴人に申込みをした顧客のうち、控訴人の信用調査を経て控訴人が承認し、オートローン契約を締結した顧客に対し当該自動車の販売及び車検整備等を実施するものであること、被控訴人は、東洋モータースから前記日産セドリック型自家用乗用自動車を購入するため本件オートローンを利用し控訴人所定のオートローン契約書(乙第一号証)により購入代金等の残金一七八万の支払を控訴人に委託したものであること、右オートローン契約書には、控訴人が所定の手続を経てこれを承認したときに本件オートローン契約が成立し(第一条)、購入した自動車の引渡しは、右契約成立後直ちに行われる(第二条)旨、更に被控訴人は右契約に基づき控訴人が立替払した残金一七八万円に二五パーセントの分割手数料四四万五、〇〇〇円を加算した合計二二二万五、〇〇〇円を控訴人所定の支払方法により支払うべき義務を負担し(第三条)、右二二二万五、〇〇〇円を完済するまでは右自動車の所有権は控訴人に帰属する(第四条)旨がそれぞれ明記されていること、なお、右自動車の所有権は、控訴人が東洋モータースに前記一七八万円を立替払したときに、東洋モータースから直接控訴人に移転するとの趣旨で右契約書第四条の規定が設けられたものであることが認められる。

右認定事実によれば、本件オートローン契約は、自動車代金等の立替払を目的とした準委任契約であると解するのが相当であつて、前掲オートローン契約書第四条の規定は控訴人が右立替払によつて当然東洋モータースに代位し(民法第五〇〇条)、前記自動車の所有権が求償をなすことを得べき範囲内においてその担保として控訴人に帰属する(民法第五〇一条)ことを確認的に明らかにしたものと解せられ、その間に控訴人の主張するような金銭消費貸借契約が併存するものと解することはできないものというべきである。右認定に反する証人宮沢の証言部分は、採用できない。

(三)  被控訴人は、右準委任契約が前記自動車の引渡しを停止条件として成立した旨主張するので、以下に検討する。

前記(二)認定事実によれば、(1)右契約には、自動車の引渡しは契約成立後直ちに行われるとの条項(前記契約書第二条)があること、(2)右契約と自動車売買契約とは同一機会に一体的になされているところ、控訴人と販売店(特扱店)である東洋モータースとの間は基本契約により緊密な信頼関係で結ばれているのに対し、被控訴人と東洋モータースとの間はそうでなく、被控訴人が自動車の引渡しを受けられない危険は、東洋モータースが立替払を受けられない危険より大きかつたはずであり、このことは、この種契約一般についていえること、(3)控訴人が取得する分割払手数料には報酬も含まれていること(控訴人自認)、(4)控訴人も本件自動車は担保として必要であり、立替払と自動車引渡しとは裏腹をなすともいえること、以上のほか、一般的に、(5)本来、買主は代金支払につき物品引渡しとの同時履行の抗弁権を有し、その引渡し前に立替払をした者が法定代位(民法第五〇〇条、第五〇一条)により代金債権それ自体を行使しようとすれば、右抗弁の対抗を受けざるをえないこと、(6)準委任による立替払の求償範囲は、これにつき特段の契約がない場合は、「必要ト認ムベキ費用」等とされていること(民法第六五〇条第一項、第六五六条)などの諸点を総合してみると、本件準委任契約において、控訴人の被控訴人に対する立替金等の具体的請求権(契約の効力発生それ自体ではないが)は、東洋モータースから被控訴人に前記自動車が引渡されることを条件として生ずると解するのが相当である(したがつて、控訴人が右請求権を確保するためには自動車の引渡しを確認してから立替払を実行すべきであつたのであり、この確認は別段困難を伴うとは思われず、東洋モータースとしても、そのことで格別不利があるとは考えられない。)。

以上の判示と異なる趣旨の前掲証人宮沢の証言部分は採用することができない。

そして、東洋モータースが前記日産セドリック型自家用乗用自動車を被控訴人に引渡さないまま、昭和五四年八月七日倒産し、商品一切は何者かによつて持ち去られ、右自動車もなくなつてしまつたことは、当事者間に争いがない。

右事実によれば、本件自動車の引渡しは不能に帰し、条件不成就が確定したので、被控訴人は、控訴人に対し前記二二二万五、〇〇〇円の支払債務を負担していないものと認めるのが相当である。

そうだとすれば、本件公正証書に表示された控訴人の被控訴人に対する債権は存在しないから、その余の主張につき判断を要せずに、本件公正証書に基づく強制執行は、許されないものといわなければならない。したがつて、これと同趣旨に出た原判決は、結局正当である。

三よつて、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(小堀勇 柏原允 吉野衛)

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